@どら焼きパンケーキ中佐-第弐14教夜桜-コトブキアズレン部のブログ

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お前もかい!

 お前もかい! 

筆名 どら焼きパンケーキ中佐

「寒い。」
どうしてここにいるのか、何処からここへ来たのかも解らぬままに、冬の夜のシャッター街で横になって雨を凌ぎながらただただ耐えていた。そこへ何人か金属バットを持ったヤンチャな若いのが騒ぎ出した。
「コイツ、ホームレスやろ?」
「そや、丁度バットもあるし試しにコイツボコらへん?」
「ええなソレ!」
 若いのは、力任せに金属バットを振り下ろした。自分は抵抗できずにひたすらにボコられ続けた。多分あちこち骨折しただろう。自分ここで、死ぬんやろか?内心、生きることを諦めたほど執拗にバットは自分に振り下ろされた。その時、
「ウチんとこのシマで何晒しとんじゃボケ!」
 突然現れた男は、拳銃を取り出してヤンチャども五人に発砲した。音が小さいのはサイレンサー付きだからだろう。三人は頭部を撃ち抜かれて即死した。
「おい。銃なんて反則やないけ!」
 命を取るのはお構いなしで自分らが殺されそうになったら正々堂々とした同じ条件を望むのか。さっきまで無抵抗の人間を金属バットで殴りたい放題だったくせに。
「命の取り合いに反則も糞もあるか!」
 残り二人のうちの一人に更に男は発砲。ヤンチャのリーダー格の男を残して他は確実に死んでいる。
「さぁて、後はキミだけや。どうせ殺されるなら早く死にたい?少しでも生きてたい?」
 ヤンチャのリーダーは失禁しながら観念したのか、
「早く...死にた...いです。」
 そう答えた。
「じゃぁご希望に背いて時間をかけてゆっくり殺したるわ♪」
 男は拳銃をしまい、奴らが使っていた金属バットをリーダーめがけて力任せに振り下ろし、死なない程度に骨折させてから聞いた。
「何か言い残したいことある?」
「た...助けて...」
「なんて?」
「た...たたた助けてぇぇぇぇ!!!」
「ご希望には添えかねます♪」
 男はリーダーの頭に渾身の一撃を振り下ろした。リーダーは脳漿を炸裂させて絶命した。
「あんた大変やったな。複雑骨折しとるかも知れへんけど少し我慢してくれ。一度事務所に戻る。」
 
その後に目覚めた時にはギプスをはめてどこぞの建物の中だったが少なくとも病院ではなさそうだった。
「健康保険証とマイナンバーカード使わしてもろうたで。自己負担三割は立替た。ウチんとこで働け。ええな?」
「はい。」
 ここで、お断りしますなどと口走ったら人生終了だっただろう。助けられたとはいえ難儀なことになった。

それからしばらくして骨折も治った自分は、あの時ホームレス狩りから助けてくれた男の自己紹介を受けた。
「自分は前入剛や。ここで、組員(構成員)をしとる。剛さんとでも呼んでくれや。アンタ名前は?」
「仁征志郎いいます。剛さんよろしくお願いします。剛さんここは何処ですか?」
「ああ、事務所言うただけで説明してへんかったな。ここは、西平組直系相楽会の組事務所や。お前さんを自分の舎弟にしようかと迷ったが組長の盃を戴いた方がお前さんも新参者としてはそうした方が今後何かとやり易いだろうと思って組長に紹介しよう。今から組長室行くで。くれぐれも失礼の無い様にな。」
 とんでもない所へ来てしまったようだが後に退ける場所は無い。剛さんに連れられたまま組長室のドアをノックした。
「前入剛。新入りを連れて参りました。」
「おう、入れ。」
 ドアを開けた剛さんは、組長に、
「先日拾った新入りです。コイツに親子盃を頂戴お願いできませんでしょうか?」
「親子盃?ああ、構わんが盃を交わしたことにしてくれんか?あんな儀式めいたモン不要や。ところで新入り名前は?」
「仁征志郎いいます。」
「俺は相楽会の行永悟や。働き期待しとるで。」
 こうして拍子抜けするくらい淡々と親子盃を頂戴したことにされた。
「仁、今度はシノギの講習を受けてもらおうか。今日はゆっくり休んで明日にそなえときや。」
 前入さんに言われるままに自分は相楽会の組員(構成員)となってしまった。

 朝や。今何時やろ?のんびりとしていたら、
「仁!いつまで寝とるつもりや!早よせい!」
「はい!急ぎます!」
 しもうた!今日はシノギの講習を受ける予定やった。極道の常識は多分一般社会以上にある意味厳しいんやろうな。剛さんにも焦りが見える。自分のせいだが遅刻はまずい。早々に支度を終え組事務所別室へと急いだ。

「お前が新入りか!」
「いえ、自分は前入ですが・・・」
「お前みたいな三下の顔も名前も知るか!」
 前入さんの表情にほの暗い闇が浮かんだ気がした。しかし、それは瞬時に切り替えられた。
「奈賀さん失礼しました。コイツが新入りの仁征志郎っちゅうモンです。」
「仁征志郎いいます。」
 そう言い終わるや否や返事ではなく鉄拳が自分の顔面にめり込んだ。
「初日から遅刻とは言い身分じゃのう。お前は初日から相楽会を舐めくさっとんのじゃ!もうお前はカタギやないんじゃ!極道らしく振る舞え。カタギでも遅刻はせんぞ!」
「はい!以後気をつけます!」
 この後も奈賀さんの注意を受けながらまずは生活指導から叩き込まれた。前入さんから聞いたが奈賀さんは若頭補佐という地位の人らしい。普通の補佐の人なら自分等のような三下の世話をする身分の人ではないそうだ。そう言う意味では面倒見の良い人なのかも知れない。それはそれとして、とにかく相楽会は金とシノギと上納金に五月蝿い所らしい。明くる日からオレオレ詐欺振り込め詐欺還付金詐欺・劇場型詐欺など一通りの講習を受けて何度も実戦を重ねていった。

 そんなある日のこと、自分は前入さんと二人で話をしていた。
「なあ、仁。お前は金についてどう思う?」
「生きていくうえで欠かせないモノだと思います。」
「そやろ?だからこそ金には魔力がある。金が人の懐を出入りする度に人を操り挙げ句の果てには人生そのものを狂わす厄介モンや。実際に俺の親父はギャンブル依存で破滅した。その煽りで借金返済に困った親は死んだわ。ほんで俺はあてもない孤児になってしもうた。そんな俺を拾うてくれたんが相楽会の先代の組長で今は西平組の若頭をされている、行永計さんや。この二人は実の親子や。覚えとき。」
「はい。そこまでの話をいくらなりゆきで組に入ったとはいえ新入りの自分に話してええんですか?」
「ええから話しとんじゃ。一つ言うとく、俺の真似事はすんな。結局のところ俺ら三下は幹部の生きる鉄砲玉や。いつ上手に使われていつ処分されるか解らへん。そこんとこ考えときや。いずれ解る。解る時が来る。」
 そう言い残して去って行った前入さんは翌日から姿を消した。組のケツを割ったという噂はなかったので相楽会の組員のまま何かの為に飛び出したのだろう。いずれ解るとは言っていたがまさかこの事か?と思った。

 前入さんの失踪に衝撃を受けつつも日々のシノギをこなして小遣いを渡された自分は小手先の繁華街のネオンに誘われながらキャバクラ『峰』という店に入った。
「当店は永久指名制となります。ごゆっくりお考えください。」
 店の店員はそう説明すると持ち場に戻っていった。良く考えた末に『咲姫』という娘にした。
「ご指名ありがとうございます。咲姫です。さあこちらのテーブルの席に座って下さい。楽しんでくださいね。」
 慣れない夜の街で慣れない酒を飲み。ちっとも酔うことは無かったが、咲姫と話すのは楽しかった。
 「また来るわ咲姫ちゃん。」
 そう言って店を出た時、ふと呼び止められた。
「俺も咲姫ちゃん指名しとるが、今日は新規のお客様や言うから仕方なしに待っとったが、ここで出会ったのも何かの縁や。俺が奢るから飲みなおさんか?俺は霞蓮次郎やアンタ名前は?」
「仁征志郎っちゅう名前です。」
「場所を変えようか。行きつけのスナックがあるんや。内緒話も出来るところやから安心しといてええで。」

 霞蓮次郎と名乗る自分より遥かに年配の男は、町中の片隅のスナックに着くと、
「ここや。」
 と言うや否や、店のドアを開け自分は腕を引っ張られながら入店させられた。
「なんで、さっき突然あったオッサンにこんなところまで連れてこられなあかんねん。そう思うとるやろ?アンタ。言わんでええ、顔に出とるよアンタ。極道には向かんタイプや。」
「なんで、解ったんです?」
「ほれ、誘導尋問にあっさりと引っかかる。今現在の状況やったらアンタは「ちゃいますよ。」と、はぐらかすこともできたんや。それもせずにアホみたいに正直に答えてるようじゃホンマに極道向きちゃうわ。ちなみに俺も元極道でな。相楽会におった。これはもう誘導尋問ちゃうぞ。」
「自分も相楽会の組員をやっとります。」
「アンタ人は良さそうや。極道やめてウチんとこの建設会社で働かんか?俺は馬鹿正直な奴が好きでな。これも何かの縁やろう。アンタがもし抗争に巻き込まれてムショにぶち込まれても出所前にこの連絡先に連絡くれたら迎えに行ったる。早めにケツ割った方がええ。もう一度言うがアンタは極道に向いてへんぞ。ウチんとこ来てカタギになれ。」
「ありがとうございます。今突然なのでご返事出来ません。連絡先ありがたく頂戴します。今日の所はこれで失礼します。」
「ああ。気いつけて帰れよ。」
 この時に相楽会のケツを早々に割るべきだったのかも知れないが、その時の自分にその選択肢は選べなかった。しかも、霞さんが言った『もし』が現実になろうとしていた。
 それからしばらくして、一人で『峰』を訪れた。
「征志郎さん、今日も来てくれたの?ありがとう!」
 咲姫は満面の笑みで出迎えてくれる。
「咲姫ちゃんこの前霞さんがくれたボトル開けてくれる?」
「はい。今開けますね。」
 咲姫はボトルキープされていたのを開けてそれを自分(仁)のグラスに注いだ。咲姫も一緒になって飲みながら話をした。
「お客に過去や仕事の話を振るのはご法度やろうから先に言っとく、自分は24歳以前の記憶が無い。相楽会の組員(構成員)というのが今の自分や。自分の戸籍にあるのは、『仁征太』享年46歳、『仁容子』享年43歳っちゅう情報だけや。顔も思い出せん。はっきりしたのは両親が他界していることだけやった。」
「征志郎さん、辛かったねえ…じゃあアタシも過去の話をするわ。アタシの父親はヤクザだったの。ある日夫婦喧嘩の末に母さんを殺してしまったの。それ以来私は施設で育ったわ。それから18歳になって小手先へ来てこのお店のキャバ嬢になったの。征志郎さんは不思議な人ね。こんな話今まで誰にも話したことなかったのに…」
「ごめんな。そんなに辛い経験があるとは知らず話さしてまうことになって。」
「ええんよ。いつかは誰かに聞いて欲しい話やったし。こんな話、これと決めた男の人にしか話さないわ。ただ私は、征志郎さんが素敵な人なだけにヤクザなのが残念なの。お願い!相楽会を辞めて!前科を抱えたとしても一般人になって!そして私を迎えに来て!それまで何年でも待つわ。」
「わかった。すべてを終えて、刑期も終えたら必ず迎えに行く。その時は源氏名でのうて本名を教えてくれ。せやないと、婚姻届出されへんやろ。」
「それもそうやねえ。じゃあ征志郎さん、無事に生きて迎えに来てください。」
 そう言って『峰』を自分はあとにした。

 西平組組長、羽恵方理が何者かによって殺害されてしまったのだ。完全な暗殺であった。羽恵方組長は組幹部数人しか知らない別荘で過ごしている最中に射殺されたらしい。若頭・行永計が真っ先に疑われたが行永計はその時は組事務所にいることが確認されておりアリバイが成立していた。西平組はこれ以上の追及を諦めて行永計を新組長とする体制を整えた。

---------時を遡ること数日前のこと、羽恵方理は実父殺害の首謀者を様々な情報をかき集めて漸く突き止めた。
「行永計か。相楽会上がりのうちの若頭か...自分の仇を重用してきたのか。俺も大概だな。行永計を始末せねばなるまい。おい!誰かいねえか!」
「どうかなさいましたか?」
「誰だお前は?」
「名乗る名前は無いです♪あなたこれから死にますから♪」
「なんだと?」
 タンッ!静かな銃声の後、羽恵方理の死亡を確認してその男は去った。羽恵方理は警護の手を緩め過ぎた。そして、緩ます原因は組長暗殺で得をする人物による指示があったことにもある。羽恵方理はさぞ無念であったに違いない。親子二代に渡って暗殺で殺されてしまったことが。首謀者に先を越されてしまったことも。実父殺しが行永計によることを突き止めるのが遅すぎたことを。鉄砲玉の使いの男が呟いた。
「金は天下の回し者ってな。俺はそれの回し者や。アンタに恨みはないが、じっくりとあの世ライフを楽しんでくれ♪」
 男は誰もいない、否、誰も生きていないその場を軽快な足取りで去って行った。辺り一面には血まみれの姿でこと切れた若い衆でいっぱいであった。
 
恵方理組長の死を受けて組をあげての盛大な葬儀が行われた。相楽会の行永悟組長や家泊能真若頭、奈賀幸雄若頭補佐の姿も見えた。もちろんだが自分は参列者になれる身分ではないので、警備にあたることになった。
「このまま何事も無く無事に終わればいいのになあ。」
 そう呟きながら溜息交じりにぼやいていた。丁度行永悟組長が羽恵方理組長の棺に近づいて花を手向けようとしたその時、羽恵方理組長の遺体は待ち構えていたかのように組長もろとも盛大に爆散した。
「組長‼」
「親父さん‼」
  その場にいたすべての人が目を疑う中、家泊さん・奈賀さんらの幹部達はとっさの行動が取れず後手後手に回り、僅かな違和感を覚えた時にはもう遅かったと他の参列した組員から聞いた。この時も組のケツを割るチャンスだったかもしれない。しかし、そんなことができる空気ではなかった。

「家泊さん、アンタ組長の危機を救えんばかりか己がのうのうと後釜に組長の椅子に座るんちゃうやろな?」
「奈賀、己が俺を差し置いて俺を更迭して後釜に座る腹なんちゃうんかい‼」
 その場の話し合いは水掛け論に終わり、実りのある結論は出なかった。家泊能真は奈賀幸雄を破門する腹を決めていた。その話は今度の組臨時総会で公表することにした。
 しめやかに行永悟組長の密葬が終わり、相楽会は行永悟組長を守れなかった家泊能真の更迭を求める奈賀派と家泊能真若頭を組長に昇格させ奈賀幸雄補佐に破門を言い渡すことを目論む家泊派に二分されてしまった。一致団結して西平組に喧嘩を仕掛けてケジメをつけさせようと考える者は皆無であった。相手は相楽会の先代でありながら今や西平組組長となった行永悟の実父・行永計だからだ。西平組直系相楽会としては初七日を過ぎるまでは喪に服すことになった。
 
 そして、相楽会臨時総会が幕を開けた。そして、家泊能真は開会するや否や、
「若頭・家泊能真の次代組長就任に賛成の方はご起立願います。」
 と発言した。驚いたことに組幹部は過半数以上が起立した。
「ありがとうございます。組長を新たに務めます家泊能真です。」
 議場は一部で騒々しくなっていた。家泊組長は幹部達の人心は掌握していたが、現場でシノギをする組員(構成員)の心まで掴みきれていなかったのである。
「奈賀幸雄を破門とする。」
 それは青天の霹靂の発表であった。奈賀幸雄はこのままでは己が危ないと感じた。家泊を殺らねばと躍起になっていた。
初七日が明けると組員(構成員)の獲得合戦が繰り広げられた。自分は家泊能真陣営に参加した。一応目をかけてもらえていたらしい。暴発寸前だった両陣営は今回の内部抗争に於いて一切の火器・銃器類の使用を禁じた。表向きはそう取り決めたが、実際のところは銃器等が著しく不足した為ではないかと相楽会の組員の間で噂になっていた。この取り決めによって深夜の小手先市街のあちらこちらで銃を使わない抗争が繰り広げられた。ドスや日本刀、他にもサバイバルナイフなどを使用する者もいた。その乱刃が飛び交う中で自分も致命傷ではないが負傷をした。出血もかなりしている。重傷のようだ。意識が朦朧としてきた。
「自分もかなりの人間刺し殺したな。一般の殺人ならとうに死刑や。」
 そう言う矢先から奈賀派の組員が道連れにでもしようとするかのようにやぶれかぶれで刺し殺そうと突っ込んでくる。自分は刃こぼれの酷いドスで撃退した。
「自分このまま死ぬんかな_________」
 そこで意識が遠のいた........

「はっ‼ここは?」
目覚めると病院のベッドに自分は寝ている。どうやら命拾いしたらしい。
「病室のテレビをつけさせてもらいニュース番組を観ると昨日の抗争の報道がされている。
「おはようございます。MHKニュースおはようさん日本の時間です。昨日の深夜に行われたとされる相楽会の内部抗争が小手先市街の地域周辺で繰り広げられ、相楽会の家泊能真若頭と奈賀幸雄若頭補佐の跡目争いの色が強かったこの抗争は重要幹部両名の死亡が確認されたと警察から発表がありました。一部報道では銃声が全くしなかった。路面の血の量が銃ではなく刃物等で刺されたような出血量の様だった。との報道もされている模様です。警察は暴対法により対処し、速やかに家宅捜査に入る模様です。」

結局のところ相楽会は抗争の結果, 家泊・奈賀両名死亡に終わり、抗争を繰り広げたことで組対四課のガサ入れを受けて最終的には相楽会そのものが解散してしまった。銃を使わないように通達して抗争に臨んだ点はさりげなく報道されていた。自分はとうとう帰る場所が何処にもなくなってしまった。自分は相楽会の元組員として決着をつけねばならない。何故そこまでそう思うのかは自分でも説明できないが、この一連の騒動の首謀者である行永計を葬らねばならない。そうでないと気が済まない。その時、ふと霞蓮次郎さんからもらった連絡先を思いだし電話をかけた。
  トゥルル♪トゥルル♪トゥルル♪ガチャッ
「もしもし。どちら様ですか?」
「この前はお世話になりました。仁征志郎です。」
「おお、アンタか。どうした?」
「これから今回の抗争のケジメをつけさせたい相手がおるんで始末しに行きます。今までありがとうございました。」
「過去形にすんなや…何があっても俺はアンタの味方やぞ!それ忘れずに無事に生きて帰れよ!その後に自首してムショから出る時、俺に連絡しろ。迎えに行ってやる。生きててナンボやぞ!」
「はい。」
  ガチャッ ツー♪ツー♪ツー♪
 
「俺はなんでこんな地下水道に呼び出されなあかんねん。」
 そうぼやきながら俺は待ち合わせ場所にたどり着いた。
「計組長!前入剛来たで!」
 地下に声がコダマする。
「こっちや!こっち!」
 俺は声のする方へ向きを来た方へ戻した。
「呼び出した方が遅刻するなんてありえへん。」
 その時、 タンッと音がして俺は腹部に激痛が走った。
「なんで?アンタの言う通りにしたら相楽会をくれる言うたやんか?」
「お前は操られてれば良かったんじゃ。操り人形が出しゃばってきたら邪魔やろ?」
「そんな…だったらあんたも地獄に道連れに_________」
 タンッ!タンッ!タンッ!行永計は跳弾を気にすることなく前入をあっさりと射殺し、始末した。
「前入、残念やったな。始めからお前は俺の都合のいい鉄砲玉であり駒や。お陀仏さん。」
 ズブッ!行永計は背中から腹にかけて熱い感触を感じていた。やがてそれが後ろから刺された感触だと解った。口から血反吐を吐きながら計は言った。
「誰や…ゴブッ!後ろからいきなり…グハッ!」
「アンタに今回の騒動のケジメをつけとうて参りました。仁征志郎いいます。行永計、諸々の因果思い知れ!」
 自分は全ての恨みを引き受けたかのような気持ちで行永計を刺した。せめてもの情けで致命傷になる場所ばかり狙い、中途半端に生き永らえないようにした。刺しては抜き、また刺しては抜きを繰り返している内に行永計は絶命した。結局のところ前入剛は自分をどうしたかったのだろうか?行永計はこの男を利用して何の得になるのか?肝心な部分が説明されぬまま当事者が死んでしまう格好になってしまった。この一件で自分は極道の道からケツを割る決心がついた。

 組事務所に戻り物騒なものを置き身支度を整えた自分は小手先警察署へ出頭した。
「一連の騒動への関与並びに西平組組長行永計殺害の罪で自首に来ました。仁征志郎と言います。」
 署内がざわつく中、因藤渉というベテラン風の警官が応対し、
「12時55分殺人の容疑で逮捕する。」
 と述べ、ワッパをかけた。犯罪者として扱われるようになった瞬間であった。それからは執拗に取り調べが続いた。自分の知っていることやしたことについては、包み隠さず話しているにもかかわらず信用してはくれない。それが商売だと言えば元も子もないが。自分自身が今日が何日か解らなくなった頃に漸く取り調べが終わり、検察へと送致された。そして、小手先地方裁判所で裁判が始まろうとしていた。
 一連の公判を終えて結審した。あとは判決を待つのみだった。
 そして、判決が下った。
「主文、被告を懲役10年の刑に処する。」
 細かい裁判長の判決に対する説明がずらずらと述べられて裁判は終わった。控訴を弁護士に勧められたが断った。これにより刑務所で最低10年のムショ暮らしが確定した。

(了)