@どら焼きパンケーキ中佐-第弐14教夜桜-コトブキアズレン部のブログ

荒野のコトブキ飛行隊大空のテイクオフガールズ二次創作系や艦つくアズレン等のソシャゲプレイ記録的日誌のブログ㌨~🥞呉鯖・大艦隊・コトブキアズレン部・司令🥞艦つく・第弐14教夜桜・司令🥞

匙は投げられた【第二次朝鮮戦争動乱】

『日本国発 宛自衛艦隊司令長官 9月11日、、一二〇〇米国は北朝鮮に宣戦布告する。貴官らは集団的自衛権の行使に基づき米海軍に随伴し行動せよ。開戦と同時に政府は、防衛出動並びに国家存立危機事態を発令するものである。貴官らの幸運を祈る。 内閣総理大臣 防衛大臣 統合幕僚長

アメリカ合衆国発 宛在日・在韓米軍司令部 9・11同時多発テロの悲劇を我々は忘れていない。この日を我らは、テロ支援国家以上の脅威である看過することのできない国家、朝鮮民主主義人民共和国北朝鮮)に対し、宣戦を布告するものである。北朝鮮に裁きの鉄槌を下す時が来た。北朝鮮に反撃の暇を与えてはならない。万が一の場合にも任務に忠実であることを忘れてはならない。諸君らの健闘を期待する。主よ我らを守りたまへ。なお、この作戦には海上自衛隊自衛艦隊及び、陸上自衛隊拉致被害者救出部隊も参戦する。』

「本日九月十一日、我が同盟国であるアメリカ合衆国北朝鮮に宣戦を布告し、交戦状態となりました。これを受けて政府は、『国家存立危機事態』並びに『防衛出動』を発令致します。国民の皆様は偽の情報に惑わされないよう気をつけてください。これを受けて、海上自衛隊はすでに自衛艦隊を編成し、展開しております。政府そして自衛隊は国民の皆様の生命の安全と財産の保護をすべく活動しています。」

 総理の冒頭会見から始まった日本国の防衛戦争はこの国を戦前でも戦後でもなく戦中に叩き落した。総理の言葉そのものが既にフェイクなのは明らかだった。が、『特定秘密保護法』『機密漏示罪』『共謀罪テロ等準備罪)』の存在により、第三者情報の提供による電子情報の入手、警察によるメール発着信の履歴の取得、その内容の開示請求などの名目でSNSも取り締まりの対象となり、ラインやツイッターなどで事実の核心に迫る者はことごとく逮捕・勾留された。ネット民も自由奔放な発言をしていたが同様に逮捕・勾留された。その見せしめの効果はあった。国民の言論の自由は無きに等しくなろうとしていた。

新聞は政府広報の説明文を掲載してお茶を濁すしかなかった。国と汝の隣人による相互フォロー監視社会が構築されてしまったのである。
9・11我々はテロリストどもに大切な人を奪われた。我々はこの悲劇を忘れてはいない。テロリストに屈してはならない。しかし、テロ支援国家である北朝鮮は度重なる挑発行為を繰り返し、ICBMの射程距離は一線を越えようとしている。我が国はかつて核を放った。その威力、被害、放射能の恐怖、すべて今日の友である日本国が教えてくれた。我々は北朝鮮による核戦争計画ならびにそれに伴う挑発外交に終止符を打つべく、本日、九月十一日、北朝鮮に宣戦布告するものである。我々は裁きの鉄槌を下すだろう。」
大統領の言葉に米国は揺れた。しかし国民は楽観的だった。なかには狂喜乱舞する者までいた。ベトナム戦争などを除いて、負けたことが無い上に太平洋戦争の日本海軍の小規模な爆撃以外本土を敵国に襲われたことはないからである。
ロケットマンに何が出来るって?懺悔の祈りの中で自らの行いを悔やみながら死ぬことさ。だって言うだろ?身から出た錆って!」
米国男性は嘲笑気味に言った。
「みんな楽勝ムードで騒いでいるけど大丈夫なのかしら?アメリカのどこにでも落ちる可能性はあるのよ?ミサイルがどれだけ来るかもわからないのに。本当に男は単純ね。」米国女性の中には迫りつつある危機を危ぶむ声もあった。
「これで、我が社は大儲けだ。戦争はアメリカの錬金術さ!負けなければね!おっと、こんなことを某団体に聞かれたら我が社が傾いてしまう。自由の国だけど自由じゃないよね。我が社はアメリカの犬にライセンス契約で生産させて儲かればいいのさ。大統領は雇用を生んだのさ。」
米国軍需産業関係者は大喜びしていた。 

そして、悲劇は起きた。宣戦布告から二日後の九月十三日、アメリカの某州に北朝鮮の核は落ちたのである。 政府報道官は、
「人類史上最大の被害者数を出した。落下地点は機密事項であり明かすことはできない。」と発表した。アメリカは総動員で被害者の救出・救援活動・救援物資の提供や医療行為にあたったが場所の口外は禁じられた。場所は他ならぬ『ペンタゴン』だったからである。ホワイトハウスはその夜、声明を出した。
「何ということだ!このような兵器を使う、ならず者国家をいつ叩き潰す?そう!今すぐにだ!我が国は核にさらされた。しかしロケットマンと同じことはしない。何故か?アメリカだからだ。覚悟するがいいロケットマン!あの国は核戦争に踏み切ったことで自ら国を亡ぼすことを選んだのだ!」
 さかのぼること九月十一日、『オペレーション9・11』は実行された。予定通り米軍の戦略爆撃機による爆撃が始まった。手当たり次第に。その状況下、拉致被害者救出部隊は血眼になって拉致被害者を捜索した、複数人の救出と戦火の中で死亡した被害者、行方不明者の確認が成された。救出作戦の末、多数の自衛官が戦死、殉職となった。実戦での自衛隊公式戦死認定者となった。結果として多大な犠牲を払いながらも、日本の目標の一つであった、拉致被害者の救出は一応の成功をおさめた。しかし、その情報は日本政府の機密事項であった。

アメリカの誤算はそのあとにある。韓国軍とともに北朝鮮へ侵攻した米軍は板門店を越え平壌めがけて進軍。しかし、米軍はゲリラ戦術とは相性が悪い。ゲリラ戦術を駆使されたことにより、9月13日に北朝鮮による核ミサイル発射の隙を与えてしまったのだ。平壌にたどり着いた時には、平壌防衛特殊部隊によってさらに犠牲者が増え、北朝鮮軍に対する常識が実情とは異なることを知った。
北朝鮮はこの日の為に相当の準備を重ねてきたのである。そして、米韓主力を引き付けた北朝鮮は、党委員長の肝いりの核の矢を米国に放ったのである。
「今こそ忌まわしき米帝に我らの核の正義の矢を放つのだ!」
党委員長の号令と共に北朝鮮最大の軍事行動が開始された。まさに青天の霹靂であった。核の矢は日本を通過、Jアラートが鳴り響いた。
「またか。迷惑だよな。」
「まさか、核入りミサイルじゃないでしょ?」
日本国民の大半がオオカミ少年のオオカミが来たぞ!のパターンに陥っていた。危機感がまるでなかった。
だが、このJアラートはいつもとは違った。スマホ速報で「ミサイル日本通過。太平洋上を尚飛翔中。到達点は不明」と号外が表示され、それから数分後、ニュース速報が流れた。

「米国に核ミサイル落下」

途端にテレビ局は臨時特番を決め、報道番組を開始した。
「緊急事態により、ここからは特別報道番組をお送りします。只今入りました情報によると、米国に核ミサイルが落下した模様です。具体的な場所は明らかにされておりません。続報が入り次第お伝えいたします。」
「号外です!号外です!アメリカに核ミサイル落下です!」
ネットの速報も同様の情報を伝えた。しかし、続報が入ってこない。そのような中、ホワイトハウスは声明を出した。
「何ということだ!あのならず者国家ロケットマンが、最悪の核攻撃をした。この核攻撃を防げなかった私の責は戦後に問いてほしい。続けよう。そして我々は日本と同じ被爆国となった。我々は核の悲劇、惨状をまるで他人事のように考えてきた。それまでの核を落とされた側の感情と悲劇を知った。この核による攻撃が許されざるものであることは言うまでもない。しかし、我々はならず者国家と同じ、あのロケットマンと同じことはしない。私はロケットマンではない。私は、偉大なるアメリカ合衆国の大統領だ。そしてとうとう奴らは我々の恐ろしさを直接味わいたいようだ。既に本格的に展開している勇敢なる我が軍に更なる追加部隊を投入する。既に我々は一定の戦果を得ている。詳しくは報道官による発表を待ってほしい。」

アメリカは揺れた。どこに落ちたかの発表もなく、更なる部隊の増強。それらの情報を加味したらこの戦争はアメリカが想像していたよりも苦戦しているのではないか?と疑問視する声も聞こえてきた。
「国民の間で、どこに落ちたかで騒ぎになっている。国防長官はなんと言っている?」
「私を罷免してくださいと申し出ております。」
「馬鹿が!ペンタゴンに落ちた核攻撃を公に出来ない責任が奴の首一つで済むわけがないだろう!奴に伝えろ。北朝鮮を徹底的に殲滅しろ。核攻撃無しでな、と。エアフォース1を準備しろ。それから今すぐ日本にホットラインをする。準備急げ。」
しばらくして回線がつながった。
「総理、久しぶりだな。突然だが直で話をしよう。リョウテイでするような話だ。」
「公式会談の体で非公式の密談をされたいということですか?」
「察しがいい、総理。リョウテイは密談、迎賓館はパーティー、首脳会談はショーじゃないか。格好として首脳会談と会見はするが。本当に話したいことは非公開で非公式の密談だ。よろしく頼むよ。総理。」
ホットラインが切れた後、総理は呟いた。
「米国もてんてこ舞いだな。日本も戦中になった。もう平和ボケはできない。この戦争の着地点を誤ると取り返しがつかなくなる。そろそろ情報を国民に提供していこう。」

日本では、このタイミングで政府が閣議決定に基づき、自衛隊拉致被害者救出部隊を派遣していたこと、国外での戦闘行為ではなく、あくまで邦人救出のための強硬的手段であったこと、武器等の使用は自衛隊員の生存権に基づくものであり、問題はないと公表した。
これに反発する向きもあったが、『暗黙の言論統制法』によって揉み消された。拉致被害者は救出されたと発表されたが、死亡者も確認されたとの発表もあった。行方不明者は捜索及び救出不可能とされた。
「政府・自衛隊と致しましてもとりわけ救出に当たった自衛隊員は懸命に救出にあたりました。救出活動において、自衛隊員に初の戦死殉職認定者が出ました。拉致被害者のご遺族並びに救出にあたった自衛隊員のご遺族には心よりお悔やみ申し上げます。全ての拉致被害者を救出できなかったことは痛恨の極みであります。残酷ですがこれが有事なのです。政府と致しましては今後、有事特例法や有事特措法の制定を急ぎ、今回の有事に立ち向かう所存でございます。国民の皆様の生命・財産を守りぬく。そのために私はシビリアンコントロールに於ける自衛隊の最高司令官として内閣総理大臣という立場で皆様の前にいるのであります。」

一方でアメリカは、核にさらされたにもかかわらず、戦意を失うことなく、むしろ激しい憎悪が戦意を高揚させていた。
「もうこれ以上落下地点を隠しても意味はないだろう。私の口から伝えよう。」
9月末、アメリカ内外から報道関係者が押し寄せた。そして、会見が始まった。米国大統領「今まで核の落下場所を伝えなかったのはそこが我が国の重要施設が含まれる場所だったからだ。そこにあるもの、それはペンタゴンだ。現在はべつの場所で極秘で活動中だ。今現在の臨時的施設の位置は勿論公表できないので承知してほしい。私は明後日、日本へ首脳会談に行くことにした。総理とこれからの方針について互いに確認する。」
「核の被害状況はどうなっているのですか?」
「いい質問だ。しかし答えられない。次。」
「大統領の判断ミスがこの事態を招いたと言われていますが?」
「それはフェイクだ。次。」
「今回の訪日の目的は?」
「それはまだ言えない。非常に高度な政治的なものとだけ言っておこう。次。」
このような調子で米国大統領の会見は終わった。

「やれやれ記者どもは同じようなことしか聞かない。あれではこちらも疲れる。補佐官、今後の日程は?」
「10月25日にエアフォース1の準備が整い日本へ行く日程となっています。」
「わかった。ロシア・中国への首脳会談の打診も怠るなよ。」

それから時は過ぎ、米国大統領は訪日した。
「本日、米国大統領が首脳会談のため来日されました。一部の日程は公表されていませんが、広島・長崎への慰霊訪問をする方向で調整中との報道もはいっています。」

「そうか、大統領は広島・長崎の慰霊も行ってくれるのか。パフォーマンスを重んじるあの人らしいな。密談のほうは記録に一切残すな。料亭の方たちには緘口令をしけ。誰かに話せば機密漏示罪だと。録音・録画対策も怠るな。そして、警備の強化も忘れるな。我が国の命運を左右するこの会談を何としても成功させなければならない。緊張感をもって取り組んでくれ。」総理は固く命じた。

そして、宮中晩餐会等の一連の行事の後、広島・長崎を慰霊訪問した。
「これまで、ヒバクシャは、日本のヒロシマナガサキの方達だった。しかし、我が国にもヒバクシャが出てしまった。我が国は第二の被爆国となった。もうこれ以上の核の愚を繰り返してはならない。繰り返させてはならない。我が国を含め、全ての核保有国の核兵器廃絶を願ってやまない。」
そう語った大統領のスピーチは称賛された。

そして、米国大統領と総理はとある料亭で密談に及んだ。
「総理、尖閣諸島問題を一度棚上げしてくれないか?」
「何故です?我が国の固有の領土ですよ?」
尖閣諸島問題を棚上げするふりだけだよ。それによって中国にこの戦争における中立宣言をしてもらうのさ。」
「成程。しかし、中国は尖閣の領有権を主張しているうえに、固有の領土と主張しています。尖閣諸島は日本領です。日本が飲めない話です。」
米国大統領は総理を試した。本当に棚上げしてくれれば一番都合がいいからだ。中国の尖閣諸島実効支配を止める手段として考えていたが、総理はのらなかった。
「冗談だよ。話のきっかけさ。本気では無い。そこで私がきりだす、統一された朝鮮半島にはサードを配備しない、すでに配備されているものは、撤去・廃棄等にするとな。」
「それは、名案ですな。戦後の海洋進出を狙う中国にとって旧北朝鮮領にサードが配備されたら、喉に骨が刺されるようなものですからな。その案にはのってくるでしょう。」
「総理、君達日本にも考えてもらいたいことがある。米日地位協定のことだ。」
「と言いますと?」
在日米軍の撤退も視野に入れた対等地位協定だ。」
「我が国の自衛隊だけで国防をしろとおっしゃるのですか?」
「考えてもみたまえ、総理。朝鮮半島にサードは置かないが、軍港や基地用の飛行場は自由に造れる。尖閣に睨みを利かすなら釜山辺りの港があれば対応できる。米日安全保障条約は維持される。米軍基地がなくなるだけさ。勿論補給の際はよらせてもらうよ。」
「…出来ますか?我が国に。」
「私が言うのもなんだが、日本が移民を受け入れる規模を拡大すれば、少子化も解消されるし、若い自衛隊員も増える。観光ではなく在住、在住よりも帰化だよ。総人口を増やさなければこの国は戦わずして滅ぶぞ。」
「大統領、貴方の仰るとおりです。内政干渉気味の発言にお答えしますと、このままの出生率で推移すれば自衛隊そのものが高齢化していきます。既にその波は来ています。自衛官が特別職国家公務員である以上、フランスのような外国人部隊は創設できません。外国人の帰化制度の条件緩和や、その子息の防衛大学への受験資格の見直しなども検討すべきところです。ところで大統領、ロシアにはどう働きかけるおつもりで?」
「秘密協定でクリミア半島併合を黙認する。あえて言わないが他の譲歩・妥協も視野に入れている」
「大統領、よろしいので?」
「ああ。それと引き換えに北朝鮮党委員長の亡命を認めさせない。中国も同様にだ。核を放った厄介者を庇い立てするほど主席はお人よしではない」

北朝鮮三代に及ぶ世襲国家の息の根を止めるおつもりで?」
「結果的にそうなるな。向こうの尊重する正当な血族を始末しなければ残党が立ち上がる可能性もあるからな。その可能性の芽は摘んでおきたい。」
「戦後、この国も変わらなければなりません。日本が自力で国防力を賄えるその日まで地位協定の見直しは延期していただけませんか?」
「総理、空母を持てない国に国防力は期待できないよ。早々に有事特例法で空母の保有を認めさせてしまえばどうだ。日本のヘリ搭載型護衛艦、カタパルトをつけたら空母だろう?例えば戦闘機搭載型護衛艦とかにすればいいじゃないか。日本でも開発中だろうが我が国の戦闘機お安くするよ。」
「大統領、我が国の問題である空母問題についてはご遠慮願いたい。同盟国とはいえ、内政干渉です。」
「総理、言うようになったな。我が国のスパイからの拉致被害者の居場所の情報は役に立ったかね?」
「はい、とても。あれがなければ救出は不可能でした。」
「総理、私個人の意見だが、スパイを持つこと。スパイ防止法を持つこと。これは基本だぞ。そして空母だ。」
「私個人として、そのとおりだと思います。」
「君のことだからその辺、抜かりはないのだろう?」
「戦後の話ですね。ご想像にお任せします。」
「総理、我々は核の防衛力を棄てねばならん。核兵器保有することが非核兵器保有国に大義名分を与えてしまうからだ。核を棄てた国へ更に尚、核を放ってくる国に対して、より大義名分を得られるのはどちらだ?核を棄てたほうだろう。核を棄てねば負ける。これからの時代はそうあるべきだ。放てば負けなのだ。ロケットマンを前例とするのさ。」
「大統領、貴方の考えが実現すれば、数え切れない犠牲者を生み出す戦争はなくなります。我が国も微力ながら協力します。」
両者の密談は思いのほか長く続き、とても有意義なものとなった。そして、朝鮮半島戦線膠着状態の最中、米国大統領はロシア大統領との首脳会談に臨んだ。密談ありきである。
「ロ大統領、首脳会談承諾感謝する。」
米大統領こちらこそ感謝する。」
少々堅苦しい雰囲気から始まった会談は、北朝鮮に対する経済制裁などお馴染みの議題について話し合った。そして、モスクワの某所で二人は、報道陣シャットアウトの密談に及んだ。
「我が国がクリミア半島問題について承認等は行わないが黙認という形で収めたい。シリアの問題もお互いの妥協点を考えたい。その代り北朝鮮党委員長の亡命を拒否し、この戦争に関して中立宣言をして欲しい。」
クリミア半島黙認はありがたい話だ。ロシアとしては、韓国による統一の後、朝鮮半島で利用できる軍港が欲しい。」
「そこでだ、統一韓国に、在韓ロ軍を設けて在韓米軍とともに、中国に対して常に警戒をしてほしいのだ。」
「気持ちはわかる。しかし、中国まで中立宣言を引き出すのは難しいのではないか?」
「やってみる。ダメならほかの方策を練るさ。」
「同じような言い回しを中国でもするのだろう?わかるよ。我が国は、国益を損なわなければ別に構わない。健闘を祈るよ。」
「ありがとう。それから、これからの時代、核兵器は役に立たなくなる。早めに捨てたほうが正義になれる。それを伝えたかったのだ。では、また宜しく。」

米国大統領は忙しい。戦争の最中、今度は中国に向かおうとした。しかし、中国当局から安全を確保出来なかった旨の報告を受けたため、仕方なくアメリカへの帰路についた。中国主席は今のタイミングで交渉のテーブルにはつかないというメッセージを込めているかのようだった。一方、日本では、北朝鮮工作員とみられる人間たちがテロ等準備罪で逮捕された。党委員長の兄を殺害したといわれるVXガスなどを使用して、首都機能を麻痺させようとしていた容疑で逮捕された。この事件に国民は憤慨とともに恐怖も覚えた。ミサイルだけではないと。毒ガスサリン事件以来、日本人に刻まれたガス兵器への恐怖である。
国会にてスパイ防止法案が与党より提案された。野党は反対の姿勢を崩さなかったが、与党は先の選挙の大勝により数の力で押し切った。この法律の制定によって、長年続いたスパイたちの楽園日本はなくなった。連日のように国会前ではデモの嵐であったが、
「言わせておくのだ。ガス抜きがなければ、国民は不平不満をぶつける場所がなくなる。大事なのは、SNSの取り締まりだ。『暗黙の言論統制法』を駆使して徹底的に検挙しろ。」この頃から、どこに行くにもスマホばかり見ていた国民が、SNSを急速に控えるようになった。昨日までそばにいた友人知人達が突然逮捕・勾留されていくのである。
そして、憲法に定める言論の自由によって暗黙の言論統制法は違法であることを求めて訴訟へと発展した。最高裁までもつれたこの訴訟の判決は、国側の勝訴であった。裁判長は「SNSが犯罪の温床として存在することを鑑みて、テロ等の準備に使用される可能性を考慮したとしても違法とは言えない。」と判決を下した。一方で、「今回の有事に関しての暫定的な判決であり、事態の収束後、更なる法整備を急ぐ必要がある。」と補足した。少なくとも国民はこの戦争の間は相互フォロー監視社会に支配されることが決定したのである。
国民は時事ものフィクション小説へと逃げ込んだ。江戸幕府元禄時代の『仮名手本忠臣蔵』の如く時代を変え今の時代の人物名をもじって週刊誌に掲載したのだ。
これが大ヒットした。政府もフィクション小説を取り締まることは出来なかった。
メディアは少なくともオフィシャルに出来ないことにフィクション作家を経て広く国民に流布させることに成功したのである。新聞社も必至である、政府広報の説明文を片隅に追いやり連日のように短編日替わり小説の掲載に踏み切った。ペンは剣より強くはなかったが折れはしなかったのである。
第二次大戦後の日本の言論の自由の逞しさが、第二次大戦中ではなし得なかったことを実現させた。政府に頭を下げて顔は横を向いているのである。そして、十二月に突入した。アメリカ合衆国では、中国に首脳会談を打診し続けていた。しかし、安全が確保できないの一点張りであった。ところが一転して、主席の方からホワイトハウスへ向かうと打診があり、急きょ米国で米中首脳会談が行われることとなった。アメリカ国内に厭戦ムードが高まってきた正にその時にである。
「主席め、こちらの痛いところを救うタイミングで訪米して恩を売る気だな。しかし、こちらも乗らない手はない。より良い条件を引き出したほうが勝ちだ。」
そして、十二月二十四日、クリスマス・イヴに中国主席が訪米した。
「メリークリスマス。ようこそ主席。」
「ハッピーホリデー。厚い歓迎感謝する」
アメリカ合衆国中華人民共和国のトップを警護するのにアメリカは、それはそれでてんてこ舞いだった。そんな現場の苦労をよそに、米中首脳会談が非公式非公開で行われた。

「中国主席、アメリカ合衆国としては、北朝鮮には滅亡してもらうほかないと考えている。米韓両軍に加え日本・豪州・欧州各国などからも賛同を募り米韓両軍を軸に国連軍としての多国籍軍としたい。軍事的支援だけでなく軍事費の支援も募りたい。貴国に希望するのは、第二次朝鮮戦争に中立を守ること。党委員長の亡命を認めさせないこと。この二点だ。」
「我が国のメリットはどこにあるのか?」
「統一韓国にサードを配備しないことを約束しよう。それと、旧北朝鮮領内に多国籍軍常設基地を設けたいので貴国も参加されては如何か?」
「ふむ、まぁ貴国の言わんとしていること、その狙いもよくわかる。その場しのぎともとれる話だがアメリカの策にのって差し上げよう。但し、中立宣言をする以上一切の軍事的援助はしない。国連安保理決議で拒否権を行使しないことだけは約束しよう。」

密談は落ち着いた雰囲気で淡々と進んだ。そして、中国主席は、帰国した。
「米国大統領は、米ソ冷戦のような、戦わない軍拡を望んでいるようだ。中・米・ロまるで三国志だな。この三国の鼎立が守らるのなら、我が国は来たる将来、最強の軍事力を手にするだろう。今はあちらに花を持たせてやればいい。」帰国の最中に主席は側近にそう呟いた。それから、年が明けて、日本では正月を迎えていた。
『あけましておめでとうございます』という言葉はこの年では姿を消えた。正月番組は無くなり、連日のように朝鮮半島情勢を報道する番組で溢れた。国民の大半は分析ばかりで実情を伝えることのないこれらの報道に飽き飽きしていた。フィクション作家からの流布報道も鳴りを潜めた。屈服したわけではない。情報源が無くなったのだ。これにはさすがに作家先生方も悩んだ。インターネットの世界は、政府の規制により、一部の内容の検索ができない場合や、削除されていたこともあった。再び『暗黙の言論統制法』が今度は国民の知る権利に及んだのである。そのような中、政府、与党による『国防有事特例法』法案が国会に提出される。米国大統領の方針を踏まえ、公に自衛隊集団的自衛権を認め、その範囲を大幅に拡大解釈させるのが、この法案の狙いである。これもまた数の力で押し切った。
国民主権どこ吹く風である。総理は独裁者になりたいわけではなかった。しかし、この難局を乗り切るには、井伊直弼の如き覚悟で、国難に立ち向かうつもりであった。しかし、当然のことながら幕末と現代では状況も政治の制度も何もかも殆んど違うのである。それらを承知で『暗黙の言論統制法』を制定し、『国防有事特例法』を通した。その判断をすることに関して総理に悔いはなかった。
「私のやったことを裁くのは私ではない。他ならぬ国民だ。私は己の政治信念に基づき、これからの自衛隊のありようを示したのだ。やり方が強引過ぎた。これもまた国民の審判によって裁かれるだろう。しかし、今は、この道しかない。」
総理は己をそう鼓舞した。1月も半ばに差し掛かるころ、米韓両軍はミサイル発射拠点の攻撃に力を注いでいた。軍事衛星で確認できる拠点はほぼ無力化したが、殲滅戦の末、多大な戦死者をだした。ここにきて、ようやく平壌が陥落したが、党委員長を含め、生存者は平壌から撤退していた。この後、党委員長と一部の高級幹部の行方は不明となり、米韓両軍の疲弊もあって、戦力の立て直しが図られることとなった。時を同じくして、ロシアが第二次朝鮮戦争に関して中立を宣言した。
「我々は、この戦争に関して中立であることを宣言する。」ロシアの中立宣言の後、国連安全保障理事会が開かれた。

「米韓両軍による多国籍軍を国連軍として各国に認めてもらいたい。」その発言に対し、拒否権を行使する常任理事国はなかった。拒否権は行使しなかったが中国は参戦・中立に関して不鮮明な態度をとった。
(中国主席は、中立宣言には、時期尚早と判断したか)」結果として、米韓両軍による国連軍が北朝鮮を制圧することを目的として作戦は再開した。この時点で既に3月に差し掛かろうとしていた。米韓両軍は実際に北朝鮮軍に苦戦した。
それでも強行して攻め続けることをしなかったのは、『国連軍』という、日本風に言えば『錦の御旗』が欲しかったのである。このことにより、国際社会対北朝鮮という構図が出来上がった。(親北朝鮮国除く)ここで米国大統領は、北朝鮮国内の明日の食料も手に入れられるかわからない国民にアメリカが直接に食糧援助をした。北朝鮮国内は富裕層の高級幹部と貧困層の一般人とに分かれていた。経済封鎖により、食糧難となった北朝鮮軍は、一般兵士にまで食糧がいきわたらず、飢餓状態であった。当然の成り行きとして、脱走兵が現れだした。国連軍は捕虜としてジュネーブ条約に規定されたように北朝鮮兵士を取り扱った。

どんなに強力な武装をしていても、兵站をできず、食糧難になったら空腹には勝てないのである。国連軍の進軍に立ちはだかったのは、対人地雷であった。地雷撤去を行いつつ、戦闘と各地での捕虜の保護にあたるのだ。それは余りに多忙で、国連軍の兵士にも厭戦ムードが漂ってきた。
国連軍は順次後方部隊と交代しながら前線を維持し、士気の低下を防いでいた。そんな矢先のことである。中華人民共和国が中立を宣言したのである。

「我々は朝鮮半島情勢を踏まえ、国連軍及び北朝鮮軍双方に対して軍事的中立を宣言するものである。経済制裁は国連決議であるが中立宣言の対象外である。あくまでも軍事的中立である。何人たりとも朝鮮半島の国境を越えての入国を許さない。」

ロシアに続き頼みの中国にも見捨てられた形になってしまったのである。高級幹部達はここにきて慌てふためいた。
「党委員長不在の今、我々はどうすればよいか?」
「徹底抗戦しようにも、武器弾薬は底をつき一般兵士のいない今、我々にはなす術がない。」
「潔く、自決しよう。」
それから、数分後、
主体思想の名のもとに!」
高級幹部達は、集団自決した。最高指導者不在の上、指揮官たちが各地で自決に及ぶ中で一般兵士たちが無理をして戦闘を続ける理由は無くなった。生き残った兵士たちは武器を放棄して投降した。高級幹部達は戦後処刑されるくらいなら自分で死ぬことを選んだ。北朝鮮の核科学技術者達の行方は不明だった。中立宣言をした中ロ両国のうち入国規制にまで言及したのは中国。ロシアはそこまで言及してはいない。或いは彼等はロシアへ逃れたのか?確かめるべき証拠もなかった。党委員長は一部の幹部と亡命を打診していたが、中・ロはこれを突っぱねた。党委員長はとうとう進退窮まった。

「ここまでよくついてきてくれた。私はここで自決する。お前たちも生き延びても処刑されるのが関の山だろう。ともに死のう。主体思想の名のもとに!」
主体思想の名のもとに!」
爆発音とともに、北朝鮮三代にわたって続いた世襲国家は名実ともに消滅した。降伏文書には、北朝鮮政府高官文官が調印した。こうして、第二次朝鮮戦争は終わりを告げた。朝鮮半島は統一され、正式に大韓民国となった。すべてがめでたし、めでたしとはいかないが、38度線は消えたのである。その偉業はたたえられた。

しかし、戦後の処理は難航した。日本では海上自衛隊自衛艦隊は解散し、それぞれの所属基地へと帰港した。陸上自衛隊拉致被害者救出部隊日報について防衛大臣を経て総理に渡された。その活動内容や任務付与について国会の承認を得ずに実行された事に関する議会での総理に対する野党の質問攻勢は限りなく続いた。航空自衛隊も新型輸送機を使って米軍の帰還任務に従事した。それはそれで自衛隊法に沿て考えても、憲法に沿って考えてもおかしいのではないかと厳しく問いただされた。
アメリカ合衆国は新たな韓国との安全保障条約の締結へ動き出し、朝鮮半島における足場固めに奔走した。
ロシアはアメリカ主導の在韓国連軍常設基地に在韓ロ軍として、念願の凍らぬ港を手にした。そこに、在韓中軍として加わった中華人民共和国呉越同舟はなはだしい状態となった朝鮮半島。そのような中、アメリカはサードを配備しない方針を打ち出して内外に波紋を引き起こした。その様なことをしたら、アメリカが核迎撃の能力を自ら放棄すると宣言したのとほぼ同じことを意味するからである。海洋進出を悲願とする中国主席の思惑に手助けしてしまったかのように世間には映ったのである。米国大統領の狙いは、米中ロの三国を一つの基地にまとめ、相互監視の役割と、軍事行動に移った場合、真っ先に制圧される人質としての側面を重視したのである。勿論、人質として機能すればの話ではあるが。組織を構成する者が、組織に属する者を守らない場合、如何に強権力を振りかざしても人心は離れていくものである。それが、米国大統領の狙いである。ロシアもまた同様の話である。

そして、月日は流れ、日米地位協定が見直される時が来た。地位協定の改正によって、日米はようやく対等になったのである。第二次大戦敗戦から云十年、国防における真の独立を果たしたのである。マスコミは騒然とした。
「日本国は、ここに真の独立を果たしました。まず皆様に申し上げなければならないのは、在日米軍の撤退と移転であります。朝鮮半島の有事が去り、沖縄をはじめ在日米軍を駐留する必要性が低くなったことが挙げられます。米軍にとっても駐留費は莫大に費用がかかります。我が国においてもいわゆる『思いやり予算』の負担が無くなります。しかし、ここからが、我が国の新たな戦後の始まりであります。国防については、全て、できることは自衛隊が行わなければなりません。これまで在日米軍が果たしてきた役割も含めてであります。我が国と致しましては、戦闘機搭載型護衛艦保有に向けて検討中であります。ヘリ搭載型護衛艦に米軍の運用技術に基づいたカタパルトを設置することで建造コストを大幅に下げることができます。国民の皆様のご理解を賜りつつ粛々と誠心誠意真摯に取り組んでいく所存であります。」
「どう考えても空母ではないですか?」
「先制攻撃に特化するならば空母と解釈しますが、私としましては、積極的な防衛力としての運用は多用途護衛艦の範疇に属すると解しております。」
「沖縄の米軍の撤退とのことですが返還後の基地についてはどうお考えですか?」
自衛隊の基地を除き、在日米軍の使用していた土地等につきましては、本来の土地所有権利者に返還する方針であります。」
「第二次朝鮮戦争の詳細について日本側からの内容についての公開はどのように行われるのですか?」
官房長官からの発表もありますが、公式な内容については、防衛白書の発売をお待ちください。そこに書かれていないことについては、国家機密であります。ご承知ください。」
「第二次朝鮮戦争という有事が終わりました。『暗黙の言論統制法』の行き過ぎた運用についての責任についてはどうお考えですか?」
「『特定秘密保護法』『共謀罪テロ等準備罪)』については運用の見直しと有識者による第三者委員会の適切な助言とを加味し、適切な運用をお約束いたします。『機密漏示罪』については、旧来からの法律でありますので、見直し等は検討しておりません。」

清々しい表情で、会見にこたえる総理に対して、マスコミは地位協定に関する話題の核心に迫る質問を次々と繰り出した。総理も丁寧に答えつつ、肝心な所を新語でかわすなど、政府対マスコミの質問と回答の応酬が続いた。
在日米軍撤退』『沖縄基地返還へ』『総理、実質的な空母保有宣言』『戦後日本新たなる船出』『防衛白書気になる中身』
新聞各社やネットニュースなどはそのような見出しが躍った。

官房長官、私の判断は正しかったのだろうか?」
「総理はこの国のトップとして最高指揮官として、迷いながらも最高の判断と信じてここまでやられたのです。疑問符を投げかけるようなことは良くありません。被害者にも戦死殉職者にも国民にも、総理自身にもです。あなたは最高の判断をしたと心に信じ込ませてください。そうでなくては、世間に顔向けできません。」
「…そうだな、嵐が去って少し弱気になっていたようだ。まだまだやらなければならないことが、海より深く山より高いほどあるのだから、それが本来の政治家だな。嫌われてもやらねばならないこともある。判断と結果で、善人・悪人に分けられる職業だからな。日々是新だな。」

総理の会見の後、アメリカ合衆国では、米国大統領の記者会見が行われていた。
「まずは、核の犠牲者と第二次朝鮮戦争に係ったすべての犠牲者に哀悼の意を表する。今回の会見の主題は米日地位協定の改正による対等化と在日米軍の撤退及び移転についてだ。質問は?」
「なぜ、日本から撤退するのですか?」
「軍事拠点が統一された韓国の特に北側に移るからだ。日本に無駄な駐留費をかける必要性が失われたことにある。あくまで地位協定の改正である。米日安保条約における対等な同盟に変わったということだ。乱暴な言い方をすると、『自分の身は自分で守れ』ということだ。いざという時以外は、以前ほど日本に掛かり切りになれないということだ。同盟関係は維持するが、軍事的にアメリカ離れしてほしい時が来たのだ。我が国の兵器を買ってくれるのもよい。しかし、それらを素材に研究を重ね、第二次世界大戦の時の日本のジーク(零式艦上戦闘機)を開発した時のようなジャパニーズ匠によって、我々の常識から飛びぬけてとてつもない高性能の兵器を造るときが来るかもしれない。その時に我々が日本の兵器をライセンス生産していたらこれほど滑稽な話はあるまい。カロウシの国だ。組織に殉ずるような国民性だ。そこが恐ろしい。かつては、彼等日本人を蔑んでいた向きもあったが、専守防衛鎖国から解き放たれつつある、かの国が積み上げてきた歴史と技術は沈まないのだ。これからの時代、日本の自衛隊の更なる国際貢献に期待する。次。」
「日本の自衛隊に空母を持てということですか?」
「その通りだ。あの国に応じた空母は必要になってくるだろう。我が国としては研究・開発・運用を日本の自衛隊によって成されることを望む。」
「我が国に落ちた核の被害についてですが、」
「今は、その話をするための場ではない。話の流れが悪くなる。次。」
「大統領は総理から空母問題について何かお聞きでしょうか?」
「総理から、空母問題は日本の自衛隊の問題で、私がとやかく言うのは内政干渉だと言われたよ。だから、もう空母問題の話はここまでだ。次。」
「中国やロシアは何故中立を宣言したのですか?」
「私はアメリカの大統領だ。中国やロシアがどうしてその決断に至ったかは知らんよ。経緯についてはこの場で話すことはない。次。」
「大統領は総理に移民政策を推進するよう提言されたという情報がありますが、これについてはどう思われますか?」
「私自身は不法移民に反対しているだけだ。手続をして問題なく移民してもらうのなら何の問題もないと考えている。総理にもそのように話した。日本は移民政策をしなければならないところまで来ている。今よりももっと大規模にだ。総人口自体が減り始め、出生率は低く、子育てに金がかかりすぎる。その結果、少子化になったのだろう?ここまでも、ここから先も私個人の見解だ。安い労働力として移民してもらうなら間違いだ。だから帰化しやすくすれば問題も早く解決するだろう。時間に異常に厳格であったり、一部の人間と信じたいが、外国人に差別的であったり、日本人自身が変わらなければ移民政策を掲げても何も成功しないであろう。我が国も多少なりとも見つめなおすべきことかもしれない。タテマエというのはここまでだ。ホンネというのは、外国人を帰化させてでも自衛隊に入隊してもらわなければ、自衛隊組織そのものが維持できなくなるからだ。と、私は考えているよ。今日の会見はここまで。」

米国大統領の踏み込んだ発言に、総理は苦笑いするしかなかった。
「まったく困ったものだ。あの人は時折、問題をややこしくする。解決の糸口がいまだ見えない深い問題に。米国大統領の言っていることは確かだが自衛隊の話は避けてほしかったな。貧困層の格差徴兵(入隊)が国内で議論されている最中なのにだ。大規模な移民はしなければならないが、法整備が追いついていない。何も移民者且つ帰化した日本人を全員入隊させたいわけでもないのに。純粋に労働人口が急激に減少し国力が衰退するのが目に見えているからこそなのにだ。米国大統領の発言で逆に移民政策がまだまだ先になってしまわないかと危惧するよ。」
しかし、総理はめげない。
「私は、自衛隊の為に移民政策を推し進めているのではありません。移民政策無しにこの国を未来の世代に託すことができなくなるのです。我々日本人の多くが外国人の方に対して心に壁がありませんか?この『心の鎖国の壁』を取り払わなければ、移民政策のすべてがうまくいきません。未来永劫日本があり続ける為にも国民の皆様と共に私たちはこの政策に取り組んでいく所存であります。」

第二次朝鮮戦争終結後初の会見で述べた総理のコメントは概ね好意的に受け止める人々が多かった。不満に思う人々も少なからずいた。もともと排他的な国民性の日本が移民政策を政府主導で推進するというのは、そこまできたか、と国民に受け止められた。
まだまだ国民の気持ちは固い。
自衛隊にしても『防大貴族』に『平民隊員』という格差が生まれそうである。貧困層に幹部自衛官になる機会さえ与えられない世の中になってしまわないように(それだけではないが)教育費の無償化等を行わなければならないのである。格差徴兵の問題の根幹がそこにある。そこが変わらなければ結局のところ何も変わらないのである。

一方、中国では、
尖閣諸島を足掛かりに海洋進出を狙える時期なのに、在韓国連軍に加わったことで思うように動けない。アメリカめ、小癪な策を!今は良い。我が中華人民共和国の拠点としてこの地を制するのは我々だ!」
ロシアでは、
「凍らぬ港も何かに役立つだろう。クリミア半島黙認などのほうが今の我が国には大きい。アメリカは中国を牽制して欲しいのだろうがそこまで義理立てする筋合いはない。高みの見物と行こうじゃないか。皆弱れば我が国にも好機はある。」

そして、第二次朝鮮戦争終結大韓民国統一記念式典が執り行われた。

「我等の悲願であった、朝鮮半島統一はついに成し遂げられた。我々はその誇りを胸に、犠牲者への哀しみを心に刻み新たな一歩を踏み出さなければならない。我々国民は多大なる犠牲者を出して、今日の統一の喜びを得ることが叶ったのである。かつては、南北に分かれていたがこれからは、大韓民国の名のもとに正真正銘の同胞である。今は、この喜びに浸ろうではないか。大韓民国万歳!」
「万歳!」
「統一万歳!」
「統一韓国に幸あれ!」

韓国中が戦勝祝賀ムードで一色に染まる中、祝う気になれない人達もいた。徴兵された息子が今回の第二次朝鮮戦争で戦死した遺族の親族の方達である。

朝鮮半島が統一されたって死んだ息子は帰ってこないんだ!自慢の息子だったんだ!そんな中で遺族にまで、万歳と言えと言うのか?人を馬鹿にするのもいい加減にしろ!」

親などの遺族の嘆きは統一の祝賀ムードによって、かき消されていった。戦争の犠牲者は負けた側だけでなく、勝った側にも当然のことながら犠牲者は発生してしまうのだ。
これもまた人の業であるのかもしれない。

時はさかのぼり、この戦争の戦後処理について語る。
東京裁判極東軍事裁判)のような戦犯を決めて処刑等を行うことはなく、当事者のことごとくが自決していたこともあり速やかに降伏文書調印から北朝鮮武装解除が行われた。そして衰弱しきっていた北朝鮮民衆や兵士たちへも衣類食料等の支援物資が慈善団体等を経て支給された。北の人々達は長い圧政から解き放たれ自由の身となった。
南側の生活水準に達するにはいましばらくの時が必要となるであろう。

さらに、朝鮮半島自衛隊が行動していたことが問題とされた。
自衛隊のこのたびの行動は人道的目的であり、拉致被害者救出という我が国における邦人救出であります。これらの行動を指示致しましたのは、日本国内閣総理大臣である私であります。歴史的観点から自衛隊朝鮮半島での行動が旧日帝を想起してしまわれる方もいらっしゃることは念頭にありました。しかしながら拉致被害者の救出活動は国外の邦人救出が目的であり戦闘行為が主目的ではなかったことをご理解していただきたく存じる次第であります。これらを踏まえ、日本国と致しましては、国際社会における平和維持への貢献をなお一層高めていく所存であります。自衛隊は現行法を重んじ、閣議決定に左右されない新憲法の立憲並びに自衛隊法を立法することを約束いたします。アジア地域の平和維持に貢献する自衛隊を目指します。どうか温かい目で見守ってください。」

総理の談話は韓国の国民にはかなり冷ややかに受け止められた。結果として国際法上の武装組織である自衛隊朝鮮半島で行動させたことは如何に解釈しても曲げられることのできない事実であるからである。だが、自衛隊の問題よりも在韓国連軍基地の問題のほうがこれからの韓国にとって特別に且つ重要な問題はなかった。統一韓国となることによって国境は中国と接するようになった。旧北朝鮮領に在韓米・中・ロ軍が終結してにらみ合いを続けていくことになってしまったからである。一見平和裏に解決したように見えるこの策は、呉越同舟さながらの不安定な組織であった。

第一次世界大戦のきっかけとなったバルカン半島が欧州の火薬庫と評されたように、朝鮮半島もまたアジアの火薬庫と評されることとなる。そして、第二次朝鮮戦争勝利1周年記念式典が催された。アメリカ・中国・ロシア・韓国・日本・その他、国連加盟国のほぼすべてが、この式典に参列した。そのそうそうたる顔ぶれは、サミットをこえたサミットと注目を浴びた。
「各国の皆様、この度は大韓民国統一・第二次朝鮮戦争勝利1周年記念式典にご参列いただき誠にありがとうございます。我が国も関係各国も深い傷を負いました。その先に掴み取ったのが今日の勝利なのです。統一なのです。この喜ばしい日を各国の皆様と共に祝うことができることを我が国の代表としてお礼を申し上げます。そして誇りに思います。」

韓国大統領の挨拶から始まった記念式典は、和やかなムードで進行していった。この時ばかりは総理のコメントを追及する現地メディア等もなかった。せっかくの祝賀ムードの興が損なわれるからである。総理も喜ばしい意味の祝賀スピーチに徹した。

「日本と韓国、両国がこうして公式に大韓民国統一の記念式典をお祝いできることをわがことのように思い、お慶び申し上げます。この先、両国の絆が深まり更なる発展を遂げることができることを誇りに思いますことを申し上げ祝辞の言葉と代えさせていただきます。」
総理の言葉は祝賀ムードも手伝ってかささやかな拍手に包まれた。

その後、中国主席・ロシア大統領の祝辞を受けて、アメリカ大統領の出番となった。

大韓民国の皆様、第二次朝鮮戦争勝利・朝鮮半島統一おめでとうございます。我が国と大韓民国の絆はより深まるでしょう。両国の未来に栄光あれ。…さて、皆様の前で是非演説をさせていただきたい。長くなりますが、よろしいですか?」
問題のない旨が米国大統領に伝えられた。その間に世界各国の報道機関は俄然次に発せられるであろう第一声に耳を傾けていた。
「この度の戦争は、我が母国、アメリカ合衆国が、当時の日本国に落とした核爆弾2発のつぎ、アメリカに3番目の核が襲った戦争だった。死者を愚弄する『ロケットマン』という呼び名を私はもうかつての北朝鮮党委員長には使わないと誓おう。北朝鮮に先制攻撃をかけた私の判断は間違いだったとは言わない。私はベストの判断をしたと信じている。だがその結果アメリカ本土に核が落ちた。その先にあったのが今日の勝利なのだ。或いは私は何を考えているのかわからない党委員長の腹の内が怖かったのかもしれない。そして、今日の日をもって我がアメリカ合衆国核兵器からの独立を宣言する。
核兵器からの独立とは、核兵器の廃絶を宣言し、自ら核兵器の完全放棄をするということである。
もはや核兵器を持つことが必ずしも核兵器に対する抑止力として機能するわけではないことが立証された。
これからの時代は、『核を放棄する正義』の時代であることを宣言する。
今日この日を『核からのインディペンデンスデイ』にしようではないか。
今日をもって核は放棄の時代に入らなければならない。そしてこの日から先、速やか核を放棄しない国、核を保有しようと画策する国は、国連軍の敵であり、世界の人々の敵である。核を持たざる国に対して核を持つ国が核を放った時、核を放たれた国が『核を放棄する正義』の国である。
大義名分を主張することができるのはどちらか?後者だ。もはや核兵器を持つことに何も得はない。この星ごと滅びたくなければ『核を放棄する正義』の重要性に気付いてほしい。そして、すべての核兵器が完全廃絶された時、それが『完全な核からのインディペンデンスデイ』となるのだ。
もうどこの国がどうとは言うまい。心からすべての核兵器が根絶されることを願う。私は世界平和を願うが、その様な夢見がちな考えがすぐ叶わないことを知っている。
勿論、核廃絶も夢見がちな考えと流されてしまう可能性が高いことも熟知している。だからこそ、私は、今ここで、この時に、アメリカ合衆国大統領という立場で、明確なプランとして世界各国に向けてこの夢見がちな理想を現実的なものとして示しているのだ。
人間が人間である以上、戦争を無くすことはほぼ不可能かもしれない。テロであったり紛争であったり、世界のどこかで争い事は起こっている。それもまた人類のサガなのであろう。しかし、さらに念を押して言う。核兵器を無くすことは不可能ではない!
世界各国の首脳の皆様、考えていただきたい。これからの時代それでもなお核兵器を持ち続けることに意義があるのかということを。そして問いたい。それでもなお核兵器を持ち続けるのか?ということを。そして『核兵器完全同時放棄条約』について国連で議論したい。各国の皆様良い返答を期待している。
これからの時代の無用の長物を棄てよう!『核兵器というゴミを捨てよう』をスローガンに。」

米国大統領の演説は大反響を呼んだ。ひたすらに礼賛する者。
ことさらに非難する者。
夢想者の夢と冷淡視するものなど様々だった。
そして、米・中・ロによるにらみ合いが続く第二次冷戦が始まった。もしかしたらその過程で『核を放棄する正義』『核のインディペンデンスデイ』がおとずれるかもしれない。困難に満ちた時代が幕を開けようとしていた。匙は投げられた。その無責任を収束させるべくこれからの時代を切り拓かなければならないのだ。(完)